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患者さんの疾患・治療の情報収集とネットワーキングについて考える

患者さんの疾患・治療の情報収集とネットワーキングについて考える

肺⾼⾎圧症と診断された時にこの病気について知っていたという患者さんはほとんどいないでしょう。肺⾼⾎圧症と診断された患者さんはどのような情報を求めているのでしょうか、そしてその観点からみた患者会の役割とはどのようなものなのでしょうか。

NPO法⼈ PAHの会 理事⻑の村上さんの司会のもと、医師代表として九州⼤学の阿部 弘太郎先⽣、患者さんならびにご家族の代表として、嶋⽥ 純⼦さん、原⽥ 喜代⼦さん、原⽥ 直喜さんにお集まりいただき、患者さんの知りたい情報や患者会から得られる情報についてお話しいただきました。

2018年9⽉29⽇開催

〜 参加者 〜

司会:
村上 紀⼦さん
NPO法⼈ PAHの会 理事⻑。20年近くにわたり患者会に携わる。

パネリスト:
阿部 弘太郎先⽣
肺⾼⾎圧症の専⾨家。診療だけではなく、PAHの会のイベントにも精⼒的に参加されている。
嶋⽥ 純⼦さん
PAH患者。
2015年に特発性の肺動脈性肺⾼⾎圧症(PAH)と診断される。⼤学病院で診療を受けながら、PAHの会で出会った仲間と積極的に情報交換している。
原⽥ 喜代⼦さん
CTEPH患者。
2002年にCTEPH(慢性⾎栓塞栓性肺⾼⾎圧症)と診断される。難病認定後も看護師として仕事を続けるも、その後2年程で退職。
原⽥ 直喜さん(喜代⼦さんの旦那さま)
夫として喜代⼦さんを⽀える傍ら、PAHの会の九州地区の運営にも携わる。

患者さんが求める情報

肺⾼⾎圧症と診断されて

村上紀⼦さん

村上さん:まずは、肺⾼⾎圧症と⾔われた時はどのように思ったか、また、その時に欲しかった情報は何だったかについて伺いたいと思います。

嶋⽥純⼦さん

嶋⽥さん:肺⾼⾎圧症と聞いた時は、どんな病気かさっぱりわかりませんでしたが、先⽣の深刻な様⼦から⼤変な病気だということはすぐにわかりました。「すぐご家族の⽅に…」とか「書類を書いて役所に申請して…」などという⾔葉を上の空で聞いていました。先⽣が、私の気持ちを気遣って「インターネットで調べられるから少し⾃分で⾒てごらん」とおっしゃってくださいましたが、しばらくはそんな気にもなれず、現実逃避して、⾔われるがまま治療を受けたという感じでした。その後、気持ちが落ち着いてくると、「この薬は何のために飲んでいるのだろう?」と疑問を感じて、⾃分で調べることができるようになりましたが、それでもなかなか実感はありませんでした。

原⽥喜代⼦さん

原⽥さん:私も肺⾼⾎圧症という病名を先⽣から聞いた時点では病気のことは全く知りませんでした。最初、原発性の肺⾼⾎圧症と診断されたのですが、主⼈がインターネットで調べると余命が5年ほどと書いてあると聞かされショックを受けました。その当時知りたかったのはやはり治療のことです。先⽣からは、プロスタグランジンI2(PGI2)製剤の持続投与療法を患者さんが受けているところを⾒せていただきましたが、私⾃⾝は仕事を続けたかったこともあり、まずは内服薬による治療を選びました。PAHの会で新しい薬が開発されると聞いて、先⽣に相談して治験に参加したこともあります。

原⽥さん(夫):家内が肺⾼⾎圧症と診断された2002年当時は、今とは⽐べものにならないほどこの病気の認知度は低かったと思います。治療薬も少なく、先⽣⽅からの情報も少ないという状況でしたが、インターネットで患者さんの会のホームページや難病情報センターのホームページを⾒つけ、必死に読みました。その後、PAHの会に出会ったのです。

嶋⽥さん:実は私は、肺⾼⾎圧症と診断されてから3ヵ⽉後くらいに、急に絶望感に襲われました。情緒不安定になり、理由もなく涙がポロポロ出てくることもありました。先⽣に相談したところ、精神科を紹介していただき、そこで処⽅された薬を飲んだら1週間くらいで快⽅に向かいました。この病気では、同じような悩みを抱えている⼈は少なくないと思います。⾃分だけで悩んでいないで、早めに先⽣に相談することが重要だと思います。

阿部弘太郎先⽣

阿部先⽣:そうですね。それは、がんを突然宣告された⽅と同じような⼼の状態なのだと思います。嶋⽥さんの場合は、抗うつ薬を飲み始めた頃にちょうど肺⾼⾎圧症の薬も効いてきて、それですぐによくなったということかもしれません。

村上さん:阿部先⽣は、患者さんからどのような質問を受けることが多いですか。

阿部先⽣:病気に対する正しい知識はどこから得られるのか、という質問は多いですね。予後や医療費助成についての質問も多いです。予後についての質問には、実際の数値をお⽰ししながら、きちんと治療すれば⻑⽣きできることをお伝えしています。遠⽅からいらっしゃる⽅には医療連携体制についても聞かれます。

村上さん:以前、九州⼤学で肺⾼⾎圧症の説明に使われているパンフレットを拝⾒する機会がありましたが、⼤変わかりやすかったです。

阿部先⽣:ありがとうございます。パンフレットの話で思い出しましたが、医療従事者の対応を不安視する声を患者さんから聞くこともあります。われわれのような専⾨施設でも、医療従事者によって知識にばらつきがあるため、肺⾼⾎圧症に普段関わっていない看護師にも、パンフレットを⽤いてPGI2製剤の投与法などを勉強してもらうようにしています。

患者会でこそ得られる情報

村上さん:PAHの会は、当時はPPHの会といいましたが1999年に私と数名の仲間で設⽴しました。設⽴のきっかけは、私の娘が肺⾼⾎圧症と診断されて治療のために渡⽶した際に、現地の患者会(PHA)に参加したことでした。

嶋⽥さん:私は2015年の11⽉に、主治医の先⽣が講演をされるということでPAHの会に誘っていただき、参加してすぐに⼊会を決めました。その後、夜間の酸素療法を始めたのですが、どうしてもくしゃみが出て困っていたところ、PAHの会で出会った⽅から液体酸素を勧められ、変更してよかったことが印象に残っています。それからはわからないことがあれば他の患者さんに聞いてみたりしています。また、患者会からアメリカの患者さんが書かれた本をいただいたのですが、⼤変勉強になります。難しい内容もありますが、⾎管の中の写真は⾒やすく、平均肺動脈圧の計算式などもわかりやすく紹介されていて、インターネットでは得られない情報がたくさんありました。

村上さん:この本は、患者会が配るという条件で著作権料なしで作成することができました。他にどのような情報が患者会から得られましたか。

原⽥さん:患者会に⼊って、治験の情報や⾝体障害者⼿帳をもらえる可能性があることを教えてもらいました。医療費助成のお話は先⽣からも教えていただきましたが、⾝体障害認定の詳細については患者会で知りました。

患者会に医師が参加する意義

村上さん:阿部先⽣、医師のお⽴場から、患者会との関わりについてお考えをお聞かせください。

阿部先⽣:私は、患者会に医師がいることの重要性について、⾝をもって経験しています。実は、家族が別の難治性の病気にかかっていて、私⾃⾝もその患者会に⼊っています。⼊会当時、九州地区の会に参加したところ、そこには医師がおらず、病気や治療法についてあまりわからない⼈たち同⼠が不安な⼼情を語り合っていました。患者さんは不安があっても、主治医に対して別の先⽣の意⾒が聞きたいとはなかなか⾔えないようなのです。患者会で専⾨医師がわかりやすく講演をして、質問を受けることで、患者さんにとってセカンドオピニオンと同じような役割も果たせます。別の医師にも相談することで患者さんは安⼼してその治療を続けられるのではないでしょうか。

村上さん:患者会で医師と触れ合えるのも患者にとってはありがたいです。私もアメリカの患者会に参加した時、患者さんの多さにも圧倒されましたが、何よりもアメリカ中から⾼名な先⽣⽅が参加し、患者と⼀緒に⾷事をしながらファーストネームで呼び合っていることに感動しました。その時の想いから、PAHの会では地⽅会や全国⼤会に、専⾨施設で肺⾼⾎圧症の患者さんを診療されている先⽣⽅にご参加いただいています。

阿部先⽣:それから、PAHの会のように、病態ごとにある程度分けて活動することがよいと思います。例えば肺⾼⾎圧症の中にもいろいろな病態があるため、患者さんが混乱しないように情報を提供することが⼤切だと思います。

患者会の活動

患者会の開催

原⽥さん(夫):私たちは2006年の9⽉に、初めて九州地区のPAHの会を開催しましたが、当時20数⼈の⽅に参加いただいたことを覚えています。そして今年で11回⽬を迎えます。正直なところ、運営は⼤変なことも多いですが、それに代え難い価値があるのでここまで続いてきたのだと思います。まれな病気ということもあり、なかなか周りに相談できる⽅がいない患者さんも多いと思いますので、ぜひご参加いただいて情報交換をしていただきたいですね。

村上さん:今、PAHの会には全国に4つの地⽅会がありますが、東京⾸都圏の会に続いて2番⽬にできたのが九州の会です。その後、関⻄の会、北海道の会ができています。地⽅会は、チラシ作りから会員の⽅へのご案内、先⽣⽅への講演の依頼まで、地区の会員の有志の⽅々によって運営されています。

原⽥さん(夫):そうですね。⾃分たちでやっていくというのが⼤事なことだと思います。

患者会の周知には医師や企業の協⼒も必要

原⽥さん(夫):私の家内が肺⾼⾎圧症と診断された2002年頃と⽐較して、治療法が進歩し情報も⼊⼿しやすくなったので、患者会に⼊らなくてもいいのではという考えもあるようです。

村上さん:会の運営上、年会費(4000円)が必要なのですが、それが影響しているのではという指摘もあります。

原⽥さん(夫):患者さんに患者会に⼊ってもらうには、やはり肺⾼⾎圧症が専⾨の先⽣⽅からご紹介いただくというのが⼀番よい⽅法ではないでしょうか。

嶋⽥さん:そうですね。私も先⽣からお誘いいただきました。

原⽥さん(夫):今後、案内パンフレットや、病院内に貼っていただけるようなポスターを先⽣⽅にお渡ししてご紹介いただけるようにしていきたいと思います。

村上さん:患者会の周知には先⽣⽅の⽀援が必要ですね。

阿部先⽣:患者会がどんな団体なのかがよくわからないということで躊躇している患者さんもいらっしゃいますので、会の内容をホームページや会報などを通して積極的に紹介されるのもよいかと思います。

原⽥さん(夫):マスコミの影響⼒は⼤きいですから、地元紙などに記事を書いてもらえると効果的ですね。患者会を開催することをお伝えしておけば、取材に来ていただけることもあるのではないかと思っています。

村上さん:PAHの会でも、プロサッカー選⼿をCTEPH啓発⼤使とした企業主催のイベントに関わったことがあります。その時は、やはりたくさん取り上げていただきました。患者会の周知には企業の⽀援も重要です。本⽇は、肺⾼⾎圧症の患者さんが求める情報、そして患者会などのネットワークがその情報を得るための助けとなり得ることが実感できました。患者会でしか得られない情報や出会いがありますので、肺⾼⾎圧症の患者さんには、ぜひ患者会に⼊っていただきたいと思います。また、患者会には医師の先⽣⽅のご参加が必要ということも確認できました。これからも多くの肺⾼⾎圧症の患者さんに患者会にご参加いただき、この難病を克服するために、⼀緒に前向きに、頑張っていきたいと思います。

阿部先⽣:そうですね。私ども医師も、この病気で亡くなる⽅をゼロにするために頑張っていきたいと思います。

村上さん:本⽇はありがとうございました。

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