妻、2⼈の息⼦の⺟として、CTEPHに向き合う

CTEPH(慢性⾎栓塞栓性肺⾼⾎圧症)は国から「難病」に指定されている病気で、早期発⾒、早期治療が重要です。そのためには、専⾨の医療関係者だけではなく、多くの⼈々がCTEPHというのはどのような病気なのかを知り、⼼当たりや気になることがあれば、専⾨の医療機関を受診することが求められます。CTEPHを広く知ってもらおうと、プロサッカー選⼿・細⾙萌選⼿はCTEPH啓発⼤使として様々な活動を⾏っています。そんな細⾙選⼿が、CTEPHの患者さんである吉⽥恵⼦さん(仮名)にCTEPHの診断に⾄るまでの経緯や、この病気とどのように向き合ってきたのかなど、お話を伺いました。
2013年12⽉27⽇開催

夫と2⼈の息⼦の4⼈家族。2006年6⽉、旅⾏先からの帰宅後に息切れや体が思うように動かないといった不調を感じる。かかりつけのクリニックで喘息と診断され治療を受けるものの、症状は改善しなかった。その後、急激に悪化し、緊急⼊院した。⼊院先の病院で肺⾼⾎圧症と診断され、専⾨医のいる⼤学病院へ転院。詳しい診察・検査の結果、肺⾼⾎圧症の⼀種であるCTEPH(シーテフ)と診断される。肺動脈の⾎栓を取り除く⼿術を⾏い、現在は症状の悪化を予防するために、薬物療法と在宅酸素療法を継続中。(2013年12⽉現在)
CTEPHと診断されて:症状、診断から治療まで
CTEPHと診断されるまでに⼤変な苦労があった

細⾙選⼿:CTEPHという病気のことは、啓発⼤使のお話をいただくまで知りませんでした。吉⽥さんは、ご⾃⾝がこの病気になられるまでCTEPHについてご存知でしたか?
吉⽥さん:私も、病名すら聞いたことがありませんでした。普段から新聞や雑誌などはよく読みますし、病気に関する情報もたくさん⽬にしますが、息切れや息苦しさといった症状が重い病気につながるだなんて思いもしませんでした。
細⾙選⼿:最初にかかったクリニックでは喘息と診断されたそうですね。
吉⽥さん:そうなんです。CTEPHは患者数が少ない病気*1のせいか、実際に診療の経験があるのはほとんどが専⾨医の先⽣とのことです。ですから、CTEPHと診断するのは難しかったようです。
細⾙選⼿:その後、⼊院先の病院で肺⾼⾎圧症*2と診断されてからも、専⾨医の先⽣に出会って治療を受けるまでに、随分ご苦労されたようですが。
吉⽥さん:肺⾼⾎圧症について書かれた本を読んで専⾨医の先⽣を調べたり、実際に⾜を運んで相談したりもしましたが、治療をしてくださる先⽣にはなかなか出会えませんでした。幸い、現在の主治医である循環器科の先⽣を呼吸器内科の先⽣からご紹介いただき、治療を始めることができました。
*1:医療受給者証交付件数による認定を受けた患者さんの数は、3,200⼈(2016年度)。認定を受けていない場合も含めると、患者さんの数はさらに多いと考えられる。
*2:⼼臓から肺へ⾎液を送る⾎管(肺動脈)の⾎圧が⾼くなる病気。CTEPHは肺⾼⾎圧症の⼀種。
突然の⼊院に家族はとても驚いた
細⾙選⼿:体調不良の原因がCTEPHだと分かったとき、どんなことを思われましたか?
吉⽥さん:病気になったのは、下の⼦がまだ⼩学校6年⽣の時でしたので、落ち込んだりくよくよしたりしている暇がありませんでした。どうしたら早く元気になれるのかを考えるのに必死で、気が張っていたんでしょうね。
細⾙選⼿:僕には腎臓を患っていた兄がいるので、病気のご家族がいる⽅の気持ちはよく分かるのですが、吉⽥さんがCTEPHという病気になって、ご家族はとても驚かれたのではないですか。

吉⽥さん:そうですね。CTEPHになるまで、私はとても健康だと思っていたし、家族もそう思っていました。体調に異変を感じるようになってから、冷や汗をかいて家で横になったりすることもありましたが、地域のスポーツクラブに参加したりもしていたので、⼦どもたちは私が⼤変な状態だとは思っていませんでした。それがある⽇突然⼊院となったので、とても驚いたようです。私⾃⾝も驚きましたが。
細⾙選⼿:スポーツがお好きで活動的ということですから、なおさらですね。
吉⽥さん:しかも、聞いたこともないような病気ですから。3ヵ⽉間⼊院しましたが、その間、家族はとても⼤変だったと思います。退院後も24時間酸素吸⼊が必要な状態だったのですが、退院時に私が酸素吸⼊のチューブを付けたまま帰ってきたのが、下の⼦にはとてもショックだったようです。
細⾙選⼿:吉⽥さんご⾃⾝も⼤変だったでしょうね。
吉⽥さん:そうですね。酸素吸⼊器を外せなかったので、下の⼦の卒業式と⼊学式には出席できませんでした。⼿術をしてからは24時間ずっと酸素吸⼊をしているということではなくなったので、少し負担はありましたが、まずは保護者会に参加しました。それから、息⼦が中学、⾼校の6年間、保護者会に継続して参加することを⽬標に頑張りました。
話をするだけで息切れすることも
細⾙選⼿:⼿術後の⽇常⽣活はいかがでしたか?
吉⽥さん:ずいぶん慣れてきましたが、酸素吸⼊器を付けたまま歩いていると、⼈から重病⼈だと⾒られてしまう、それがつらいですね。酸素吸⼊なしで動くには制限があるので、遠出する際には酸素ボンベは持ち歩かなければいけませんが、使う機会をなるべく減らして、⼈から病⼈という印象をあまり強く持たれないように気を付けています。
細⾙選⼿:今こうしてお話をしているだけだと、とてもご病気だとは分かりません。

吉⽥さん:そうかもしれませんね。でも、体調が悪いときはこうしてお話をしているだけでも、息切れをしてしまうこともあるんですよ。
細⾙選⼿:話をしているだけでというのは⼤変ですね。
吉⽥さん:横になって寝ているときや家事の合間など、何か特別なことをしたわけではないのに、急に息苦しくなってくることもあります。
細⾙選⼿:ということは、常に予測がつかない中で調⼦が悪くなった場合に備える必要があるのがCTEPHという病気なんですね。
CTEPHとうまく付き合っていくコツとは
負担のかかる動作はなるべく避ける
細⾙選⼿:普段の⽣活ではどのようなことに気を付けていらっしゃいますか?
吉⽥さん:家の中ですと、階段を上る際は⼀気に上るのではなく、階段の途中で⼀息ついてから上るようにしています。外を歩くときは、なだらかでも⻑く続くような坂道は苦⼿なので、なるべく避けるようにしています。
細⾙選⼿:⾞や電⾞に乗る際に注意することはありますか?
吉⽥さん:この病気では胸を圧迫されるのがよくないので、⾞に乗る際はシートベルトで胸を締め付けすぎないように気を付けています。通院のためにどうしても満員電⾞に乗らなくてはいけないことがあるんですが、胸が圧迫されないようにバッグを胸のあたりに持って守るようにしています。

細⾙選⼿:⽇本の電⾞はものすごい混み⽅ですからね。僕らでも満員電⾞に乗るのは苦しいですから、患者さんが乗るのは本当に⼤変だろうと思います。
吉⽥さん:それから、重いものを持つと症状が悪化して息苦しくなったりもするので、重いものは持たないように気を付けています。買い物には⾞で出かけるので、⾷料品などをついつい買いこんでしまうんですが、買ったものを家に運ぶのは家族に頼むようにしています。
細⾙選⼿:何でも⾃分でやるのではなく、ご家族や周りの⼈に頼るのも⼤事なことなんですね。普段の⾷事は吉⽥さんが作っていらっしゃるんですか?
吉⽥さん:よほど体調が悪くないかぎり、⾃分で作るようにしています。アルコールや塩分だけではなく、服⽤を続けている抗凝固薬との飲み合わせの悪い⻘野菜や納⾖なども控えめにして、バランスのよい⾷事を⼼がけています。
細⾙選⼿:ほかに、⾷事に関して主治医の先⽣から気を付けるように⾔われていることはありますか?
吉⽥さん:太ると⼼臓に負担がかかってしまうので、太りすぎに注意するよう⾔われています。外⾷した⽇は家での⾷事を控えめにするなどして、⾷べ過ぎないように気を遣っています。
家族の理解やフォローがあったからこそ治療と向き合えた
細⾙選⼿:CTEPHに関する知識や情報は、主治医の先⽣を通して得ることが多いかと思いますが、ほかにどのような⽅法で情報を集めていますか?
吉⽥さん:私の場合、肺⾼⾎圧症の患者さんとそのご家族が運営している「PAHの会」という患者会に参加しているので、患者会を通じて情報を⼊⼿することが多いです。⼿術後に症状が改善し、体⼒が回復してきた頃から積極的に患者会の勉強会に参加するようになりました。
細⾙選⼿:吉⽥さんが特に欲しいと思われるのは、どのような情報でしょうか。
吉⽥さん:やはり薬に関する情報が欲しいですね。患者同⼠で情報交換をして、同じ病気でも治療の仕⽅は少しずつ違うということを知りました。

細⾙選⼿:勉強会にはご家族と⼀緒に⾏かれることもあるんですか?
吉⽥さん:体調が落ち着いて1⼈で電⾞に乗って⾏けるようになるまでは、夫と⼀緒に参加していました。病気については分からないことだらけでしたから、夫もとても熱⼼に勉強してくれました。
細⾙選⼿:ずっと付き合っていかなくてはいけない病気ですから、ご家族の病気に対する理解はとても重要になってきますよね。
吉⽥さん:そうですね。すごく⼤事なことだと思います。CTEPHと診断されてすぐの頃は、主治医の先⽣からの説明は必ず家族も同席したうえで⾏われました。特に⼿術で⼊院している間は、家族の理解やフォローがなければ乗り越えられなかったと思います。
細⾙選⼿:ご家族以外の周りの⽅にも病気についてご理解いただいていますか?
吉⽥さん:⾷事会や同窓会などで親しい友⼈に会うときは、⾃宅から近い場所や駅からすぐのお店など、私が⾏きやすいように配慮してくれたり、皆さん協⼒してくださいます。
CTEPH患者さんから伝えたいこと
治療を続けることで普通の⽣活を取り戻していける
細⾙選⼿:⽇常⽣活のことなど、ここまで様々なお話を伺ってきましたが、僕は吉⽥さんがCTEPHという病気とすごく上⼿にお付き合いされているなと感じました。病気になられて6年ほど経ちますが、吉⽥さんはご⾃⾝の病気について今どのように思っていらっしゃいますか?
吉⽥さん:病気になって⾊々なものを失ったのは事実ですが、同じ病気の患者さんや医療関係者の⽅々との出会いがあったり、こうした機会でお話しさせていただいたり、⾃分の世界が広がるきっかけにもなりました。それによって得たものも多いと思っています。
細⾙選⼿:すごく前向きですね。この記事を読んでいる⽅の中には、CTEPHと診断されたばかりの患者さんや病気とどう向き合うのか悩んでいる患者さんもいらっしゃると思います。吉⽥さんのように前向きな気持ちで病気と向き合うには、どうしたらいいのでしょうか。

吉⽥さん:まず、⾃分の病気をしっかり理解することだと思います。そして、無理はしない。できる範囲で、⽇々の⽣活を楽しむ⽅法を⾃分なりに⾒つけていけばいいと思います。私の場合、これまではスポーツをしたり体を動かすことが楽しみだったんですが、今は家でヨガをしたり公園を散歩したりすることが楽しみになりました。
細⾙選⼿:⾃分にできることを楽しみながら、病気と付き合っていくということですね。
吉⽥さん:治療を始めたとき、主治医の先⽣から症状が重くても治療を続けて仕事に復帰した患者さんや、旅⾏に⾏けるようになった患者さんもいるという話を聞き、希望を持つことができました。治療を続けることで、普通の⽣活を取り戻していくこともできるんです。病気の情報は患者会で得られますし、同じ病気と闘う仲間もたくさんいます。新しい薬が登場したり、これからも医療はどんどん進歩していきますから、CTEPHと診断されたばかりの患者さんには、「⼤丈夫よ」と伝えたいです。
CTEPHを多くの⼈に知ってほしい
細⾙選⼿:僕もそうでしたが、CTEPHという病気を知らない⼈はすごく多いと思います。CTEPH啓発⼤使を務めることになってから病気について勉強し始めましたが、本当に難しいですよね。でも、こういう病気があるということは、たくさんの⼈に知ってもらわなければいけないと思います。
吉⽥さん:そうですね。患者数の少ない病気ですから、⼀般の⽅はもちろん、医療に携わっている⽅にも診断法や治療法はあまり知られていないのが現状です。細⾙選⼿のおっしゃるように、この病気を多くの⽅に知っていただくことで早期発⾒につながればいいなと思います。
細⾙選⼿:僕もそう思います。CTEPHへの理解を広めるため、CTEPH啓発⼤使として様々なイベントに参加していますが、患者さんやご家族のためにも、これからももっと⾊々なことをやっていきたいなと思っています。今⽇は、どうもありがとうございました。

よしだ けいこ
吉⽥ 恵⼦さん
(仮名)